anti-doping Forum


成長ホルモンの検出が可能になる(朝日新聞2月24日朝刊より)

薬物HGHで初陽性 プロラグビー選手処分 英国反ドーピング機関
   英国反ドーピング機関は22日、禁止薬物のヒト成長ホルモン(HGH)を使用したとして、ラグビーのプロ選手を2年間の資格停止処分にしたと発表した。ドーピング検査でHGHが検出され選手が処分されるのは世界で初めて。
   筋肉増強作用があるHGHは検出が難しい薬物。アテネ五輪から検査が始まり、北京五輪では最新の検査機器が導入された。これまで選手が、使用を告白した例はあるが、同機関のパーキンソン理事は「検査で陽性反応が出たのは世界で初めて」と話した。世界反ドーピング機関(WADA)のハウマン事務総長は「とても重要な一歩。HGHは見つからないと言っていた選手たちは愚かだ」と述べた。
   処分を受けたのは、31歳の元イングランド代表フッカー、テリー・ニュートン。19日にHGHの使用を公表、所属チームを解雇された。(AP=共同)

検出成功、大きな抑止力に
   反ドーピング活動の中で、最大の懸案だったヒト成長ホルモン(HGH)の検出についに成功した。1990年代から乱用が指摘され、96年アトランタ五輪は「成長ホルモンゲーム」とまで揶揄(やゆ)された禁止薬物。なのに検査法の確立が難しく、筋肉増強剤として使い放題になっていた。
   HGHの違反が発覚した例は過去にもある。しかし、税関で押収されたり、捜査を受けた選手が自ら告白したりしたケースなどで、検査で陽性反応を示して突き止めたケースはなかった。
   HGHは人の脳下垂体から分泌されるホルモンで、だれもが体内にもつ。そのため、遺伝子組み換え技術を使って人工的につくられたものと区別するのが難しい。早く代謝されてしまうことも検出を困難にしていた。
   検査法開発のために国際オリンピック委員会(IOC)や欧州連合(EU)、WADAなどが計10億円以上の資金を拠出。研究が進んだ。検査は2004年アテネ五輪で初めて導入。だが、投与後48時間以内でないと見つけられないという不完全なものだった。
   06年トリノ大会、08年北京大会も陽性はゼロ。検査の実効性を疑問視する声もあった。検査用キットの生産が進まず、検査態勢の整備が停滞した時期もあったが、20年近い関係者の努力がようやく実った。今回の成功は、HGH使用をやめさせる大きな抑止力になるだろう。(酒瀬川亮介)

   今回、成長ホルモンの検出が可能となり、これからドーピング検査で陽性者が増えるものと思われる。これによりどのくらいの規模で使用されているのかの推定もできるようになる。そこから副作用の被害の実態についても調査が可能になるだろう。身体各臓器の肥大、特に心筋症など心臓への影響が一番懸念される。



ステロイドサイクルの繰り返しは
臓器の組織形態の変化をもたらす

ステロイドサイクル
2サイクル目の心筋組織(雄ラット)
ステロイドサイクルを2サイクル施行し、炎症部分を持った心筋組織。白い部分()が炎症層であり、本来はそういうものが見あたらない。
ステロイドサイクル
2サイクル目の精巣組織(雄ラット)
ステロイドサイクルを2サイクル施行し、テストステロンを分泌するライディッヒ細胞()が萎縮、喪失した精巣の組織。腺組織と腺組織の間に島状にあるライディッヒ細胞があまり見えない。

 雄ラットにステロイドサイクルを2サイクル施行すると、心臓、精巣、および前立腺、腎臓、肝臓の組織に変化が出てくる。1サイクル目でははっきりしない。しかし、これではあくまでも解剖形態学的変化であり、1サイクル目にも機能的変化は来ている可能性はある。ひるがえって人に当てはめて考えれば、ステロイドサイクルを繰り返している人は解剖学的にも臓器の組織形態に変化が出ることが考えられる。



「Anabolic Steroids、臨床家のためのの総説」紹介

   今回のトッピクスはSports Medicineの02年32巻285ページに乗ったKutserらの「Anabolic Steroids、臨床家のためのの総説」について紹介したい。
   ここで彼らは蛋白同化ステロイドがボデイビルダーなどのアスリートは熱心に蛋白同化ステロイドの情報を収集している事実を示している。しかも作用や使用法については大変詳しい知識を持っている。しかし、残念ながら得られるものバイヤーなどを通したエピソード的なものが多く、文献的な裏付けのあるものではない。すなわち系統立てられたものではない。
   蛋白同化ステロイドのアメリカ合衆国での使用状況について論説も加えており、高校生や大学生のスポーツに決して無縁ではないことを示している。また蛋白同化ステロイドの生理や作用、副作用についても言及していた。蛋白同化ステロイドを使用しているというかなりのプラセボ効果を強調していることも述べておく。
   しかし、これまでの蛋白同化ステロイドの研究についても問題点を指摘していることも述べておこう。ヒトを対象にした研究のため、すべての研究が単剤投与である。実際の現場では併用(スタッキング)しているにもかかわらずである。しかも投与量が実際使っている量よりも圧倒的に少ない。併用の効果が知られていないにもかかわらず、多くの研究者は併用の研究を行っていない。しかも共通パラメーターを使用していないので論文かの結果の比較が難しい。
   このようなことが医師-患者関係の不足をもたらし、アスリートをアンダーグラウンドなステロイドハンドブックのような出版物に向かわせることを彼らは指摘している。
   実際、高橋が蛋白同化ステロイドの副作用を呈した患者を診察すると教科書的なものよりもこれはと驚くと言うことが多い。これがその背景であると感じる。このような状況を含め、臨床および研究を進めて行きたい。



ワールドカップとドーピング

   本年はサッカーの世界的競技会であるワールドカップが日韓共同で開催される。当然この種の競技会ではドーピングコントロールが厳重に行われる。ところでサッカーによるドーピングの特徴的なものはどんなことがあげられるか。
   まずサッカーで頻用されるのが興奮剤の類である。すなわちエフェドリン、フェニールプロパノアミン、アンフェタミン類が使用される。場合によっては麻薬で陶酔した気分で“ぶちきれる”わけである。マラドーナ選手の例などが典型である。したがってこれらの興奮薬の常用による依存症的選手が散見されるがその治療はきわめてむずかしい。興奮剤の使用がきっかけで起こる自律神経の失調やパニック障害などは実にやっかいである。日本選手が海外に進出するのは大歓迎であるが、これらに染まらないで欲しいと祈るばかりである。
   また持久性を高める薬物が使用される可能性も大きい。エリスロポエチン(EPO)が多用されているが、日韓の6月の高温多湿(特に地球温暖化により高温が予想される)の気候を考えるとこれを使用した選手などは血栓形成に加えて脱水症状により突然死などの事故が起こる可能性もある。先日のソルトレークオリンピックでもエリスロポエチンの類似物質であるダーベポエチンが使用された。その他血液ドーピングも行われる可能性があり、いずれにしてもこれらを使用した事故に要注意である。
   さらに男性ホルモン・蛋白同化ステロイドや成長ホルモンなどのいわゆる筋肉増強剤が筋肉増強のために使用されてくる可能性はある。実際、男性ホルモン・蛋白同化ステロイドはヘモロビンを高め持久性を増す可能性もあり、クレンブテロールなどは興奮性もともなう可能性があるので要注意である。現在のドーピングコントロール技術では検出できない成長ホルモン、ソマトメジンCの使用も憂慮される。
   さらにドーピングの問題は別に選手だけではない。フーリガンが日本国内でアンフェタミン、麻薬の使用で騒動を起こさないよう、そして日本の若年者に波及しないよう警備当局の奮闘に期待する。



男性化作用について

   男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイドのドーピングによりイライラやちょっとしたことに対しても攻撃的になることがあるが、これはこれらの薬剤の男性化作用による。不眠や脱毛、男性型ハゲ、性欲更新などもこの作用による。
   一方男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイドの投与期間が長かったり、投与量が過剰であるとこれと逆に気分が落ち込んで何もやる気がおきない状態になる。いわゆるうつ状態である。また性欲低下、勃起不全などにもなる。これは投与した男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイドがアロマタイゼーションにより女性ホルモン(エストロゲン)に変換される率が高まり男性ホルモン(アンドロゲン)とエストロゲンの比率が崩れるためである(ある種のアロマタイゼーションしない蛋白同化ステロイドはあることはあるが)。女性化乳房も同様のメカニズムである。また男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイドの投与を中止した時期にもこの種の症状が出現する。
   精神神経症状にはイライラや攻撃的なときには抗不安薬(穏和精神安定薬)を中心に処方する。またひどいときには鎮静薬にて対処する。一方、アロマタイザーションによる相対的女性化によるうつには抗うつ剤を使用したいがこういう人に使うと相対的な女性化ということで依然として高アンドロゲン血症はあるのでまかり間違えると攻撃となって取り返しのつかないことも起こる。やはり抗不安薬(穏和精神安定薬)を使って精神の安定を図ることが中心となる。
   このような症状のある人は精神神経科医とよく相談する必要があるだろう。



女性化乳房について  Copyright by Masato Takahashi,MD

   男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイド(アナボリックステロイド)を使用したときに最も訴える副作用が女性化乳房である。女性化乳房になるのは肝硬変の時や薬剤使用によるものが大部分である。男性にとって乳房が膨らむということは脅威的なことである。原因としては男性ホルモン(アンドロゲン)と女性ホルモン(エストロゲン)のアンバランスが原因である。生体では男性ホルモンの代表であるテストステロンが女性ホルモンの代表であるエストラジオールに変換(アロマタイゼーション)する。男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイドを投与するとその変換率が高まりこれらの薬剤からもエストラジオールに変換される。そのために 男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイドを投与したのに女性化するのである。これは乳房のみならず精神的にも女性化したりうつ的となる。
   医学的には女性化乳房の治療乳癌と異なり生命に関わらないことからあまり熱心に行われていないのが現状である。
   男性ホルモン製剤・蛋白同化ステロイドによる性化乳房の治療としては当然薬剤の中止である。また、エストロゲンレセプター阻害剤やアロマタイゼーション阻害剤の使用であるが保険適用はなく自費治療である。また素人治療を試みる人がいるがホルモンのバランスを崩す治療なのでやめた方がよいのは当然である。
   最近ではアンドロステンジオンやサイクロフェニールを使用して女性化乳房による人が多いことも付け加えておく。